補助金・助成金を活用して「人材」を強化する
激しい競争のなか企業の業績をアップさせるためには、そこで働く従業員の知識やスキル、
またはリーダーシップなどを、人材育成の研修で高めていくことが有効です。
また、せっかく育った優秀な人材を離職させない環境も整備していく必要があります。
実はこの人材育成のための研修や環境整備に費やした経費に対して、補助金や助成金を受給するための制度があります。
今回は、人材育成に関わる補助金や助成金にはどのようなものがあるのか、
また、申請の際の注意点についてお伝えしていきます。
目次
1. 人材育成や社員研修に使える補助金・助成金
人材育成に関わる補助金や助成金は、大きく分けて「全国規模」と「地方自治体規模」の2つあります。
地方自治体規模のものは、企業がどこにあるのかによって適用されるかされないかが決まってきますが、
全国規模であればどこにあっても対象となります。
(1)全国規模の助成金
まずは全国規模の助成金について解説していきます。
①キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は非正規労働者を対象とした人材育成・処遇改善の助成制度で、7つのコースに分かれています。
労働生産性を向上させた事業者に対しては助成金の金額が割増となるため、
【 】の金額が助成金の上限額となります。
●正社員コース
優秀な人材を確保するために有期契約の従業員やパートを正社員として雇用する際に受給できる制度です。
6カ月以前の賃金よりも、転換後6カ月の賃金が3%アップしていることが条件になります。
助成額 | |
---|---|
有期→正社員 | 57万円【72万円】 |
有期→無期 | 28万5千円【36万円】 |
無期→正社員 | 28万5千円【36万円】 |
●賃金規程等改定コース
賃金の引き上げを行う事業者への支援制度です。
増額改定した日から過去3カ月と比較して、改定後6カ月雇用しており基本給が2%以上昇給していることが条件です。
一部の有期契約労働者が対象となる場合は助成金額が半分くらいまで下がります。
すべての有期契約労働者の賃金規程を2%以上増額改定した場合
対象労働者数 | 助成額 |
---|---|
1~3人 | 1事業所あたり9万5千円【12万円】 |
4~6人 | 1事業所あたり19万円【24万円】 |
7~10人 | 1事業所あたり28万5千円【36万円】 |
11~100人 | 1人あたり28,500円【3万6千円】 |
一部の賃金規程を2%以上増額改定した場合
対象労働者数 | 助成額 |
---|---|
1~3人 | 1事業所あたり4万7千円【6万円】 |
4~6人 | 1事業所あたり9万5千円【12万円】 |
7~10人 | 1事業所あたり14万2,500円【18万円】 |
11~100人 | 1人あたり14,250円【1万8千円】 |
●賃金規程等共通化コース
同じ職務を行った正社員と有期契約労働者の賃金に差が無いように区分の共通化をした事業者への支援制度です。
3カ月以上前から共通化以降6カ月以上雇用されていることが条件です。
対象労働者数 | 助成額 |
---|---|
1人 | 1事業所あたり57万円【72万円】 |
2人目以降 ※上限は20人まで | 1人あたり2万円【2万4千円】 |
●諸手当制度共通化コース
賞与や役職手当、特殊作業手当、精皆勤手当、食事手当、単身赴任手当、地域手当、家族手当、住宅手当、
時間外労働手当、深夜・休日労働手当など、
有期労働者に対して正社員と共通の諸手当制度を設けた事業者への支援制度です。
3カ月以上前から共通化以降6カ月以上雇用されていることが条件です。
助成額:1事業所あたり38万円【48万円】
●選択的適用拡大導入時処遇改善コース
有期契約労働者を社会保険に加入し、基本給を3%以上増額する事業者を支援する制度です。
対象労働者が複数いて、割合増額が異なる場合は最も低い増額割合の区分での適用となります。
措置適用後6カ月以上の雇用が条件です。
助成額:1人あたり2万9千円【3万6千円】~13万2千円【16万6千円】
※支給申請上限人数は45人まで
●短時間労働者労働時間延長コース
短時間労働者の週所定労働時間を5時間延長し、さらに社会保険に加入させる事業者を支援する制度です。
延長前6カ月と措置適用後6カ月以上の週所定労働時間を比較できることが条件です。
助成額:1人あたり22万5千円【28万4千円】
② 人材開発支援助成金
週労働時間20時間を超える長期労働者を対象に、
職務に関わるスキルや知識を学ぶ研修や訓練を受けさせる事業者を支援する制度です。
3年後に生産性が6%伸びていることを報告すると助成額が割増になり、
【 】の助成額へと上限が引き上げされます。
●特定訓練コース
定められた条件を満たした訓練に対して助成されます。
助成額 | |
---|---|
OFF-JT(実地・机上訓練) | 経費に対する助成率45%【60%】 1人あたり1時間760円【960円】 |
OJT(雇用型訓練) | 1人あたり1時間665円【840円】 |
●一般訓練コース
特定訓練コース以外の訓練に対して助成されます。
助成額 | |
---|---|
OFF-JT(実地・机上訓練) | 経費に対する助成率30%【45%】 1人あたり1時間380円【480円】 |
●キャリア形成支援制度導入コース
セルフキャリアドック制度、教育訓練休暇制度、教育訓練短時間勤務制度を導入して実施した企業に助成されます。
助成額:1事業所あたり47万5千円【60万円】
●職業能力検定制度導入コース
従業員の技能検定に合格に関する制度を導入し、実施した企業に助成されます。
助成額:1事業所あたり47万5千円【60万円】
③ 両立支援助成金
家庭の育児や介護と仕事を両立させるための取り組みをしている企業を助成する制度です。
出生時両立支援コースや介護離職防止コース、育児休業等支援コース、不妊治療両立支援コース、
助成活躍加速化コース、新型コロナウィルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援コースがあります。
助成額:1人あたり5万円【6万円】~57万円【72万円】
④ 世代別や特定の事業主を対象にした助成金
一定の条件にある求職者に対し、雇用促進のための取り組みをしている企業を助成する制度です。
●特定求職者雇用開発助成金
雇用が困難な高齢者・母子家庭の母親・障害者などハローワークを介して雇用する企業を助成します。
助成額:数十万円~200万円
※助成対象期間は1年~3年
●トライアル雇用助成金
3カ月の有期で雇用する制度で、週に30時間以上の労働時間を確保することと、一定期間解雇しないことが条件です。
助成額:1人あたり月額1万円~4万円
●人材確保等支援助成金
雇用管理制度整備を改善して人材確保に努めたり、テレワークの仕組みを導入する企業を助成する制度です。
評価期間後1年間の離職率が30%以下であることが条件です。
助成額:1事業所あたり57万円【72万円】~1,000万円
●65歳超雇用促進推進助成金
65歳以上への定年引き上げや高齢者雇用環境整備に取り組む企業を助成する制度です。
引き上げ年齢や対象となる人数によって助成額は異なります。
助成額:1事業所あたり5万円~160万円
(2)地方自治体独自の補助金・助成金
地方自治体でも、独自の人材育成や雇用促進の補助金・助成金制度を設けています。
① 東京都中小企業職業訓練助成制度
東京都内にある企業で、都内で訓練や研修を実施する企業を助成する制度です。
年間の支給上限は100万円で、正規労働者以外のパートなども対象となります。
社内型だと6時間以上12時間未満、社外型だと3時間以上20時間未満となっています。
助成額 | |
---|---|
社内型 | 人数×時間×430円 |
社外型 | 受講料の50%まで(1人あたり最大2万円) |
② ものづくり人材育成補助金(ものづくり人材育成支援助成金)
先端技術または専門技術習得のための研修や訓練に対する補助金・助成金制度で、
内容や補助金の金額は地方自治体によって異なります。
地域に本社や工場を有する中小企業事業主が対象となります。
例)1日3時間以上で合計6時間以上の研修の場合、実費の50%を助成(1人あたり最大5万円)
③ UIJターン採用・プロフェッショナル人材採用助成金
主に人材確保に苦労している地方自治体が、
都心からの人材採用を促進する取り組みをしている企業に助成する制度です。
地方自治体によって助成額に上限は異なります。
●UIJターン採用助成金
UIJターン採用助成金は、10年間のうち5年間かつ直近1年間は東京都に在住し、
地方自治体が開設しているマッチングサイトからの求人に限定されます。
例)1事業所あたり経費の50%を助成(上限は100万円)
●プロフェッショナル人材採用助成金
プロフェッショナル人材採用助成金には、給与も経費に含まれます。
例)1事業所あたり経費の50%を助成(上限は80万円)
2. 実例紹介!人材育成に使える補助金・助成金の活用方法
人材開発支援助成金(特定訓練コース)の実例
15名の従業員が在籍している中小企業で、期待する中堅社員にマネジメント研修を受けさせリーダーシップを育成し、
組織力を今以上に強化して生産性を高めていきたいので特定訓練コースに申請。
結果、その従業員の前向きな姿勢が周囲に良い影響を与え、売上増加。
- 研修費用:6万円
- 研修期間:30時間
- 助成額:6万円の60%にあたる36,000円と、960円×30時間の28,800円の合計額にあたる64,800円
キャリアアップ(正社員コース)の実例
サービス業の中小企業で、人件費を抑えるために有期契約の従業員の割合が大きかったが、
離職率が高く人材確保が難しくなったため、正社員コースに申請し、有期契約従業員から3人を正社員に転換。
結果、この3人のモチベーションが高く、生産性が向上。
- 助成額:72万円×3人分の146万円
3. 補助金・助成金を申請する際の基本的な流れ
補助金・助成金は、全国で3,000以上の種類があり、それぞれに内容が異なります。
申請書も毎年更新されますので、最新のものかどうかを必ず厚生労働省のホームページで確認してください。
また、審査によって採択の可否が決定する補助金とは違い、助成金は基本的に要件を満たせば受給されます。
ただし、キャリアアップ助成金のように事前に計画書や規定を提出しなければいけない助成金もあります。
また、計画を実施するにあたり、キャリアアップ管理者も配置しなければなりません。
転換して6カ月後に、状況報告のための申請が必要となり、出勤簿と時間外手当の整合性などがチェックされます。
違反がある場合は受給できなくなりますので、事前準備のほか、事後報告の準備もしっかり進めていくことが大切です。
4. どんな補助金・助成金も「やみくも申請」では採択されない
すべての補助金・助成金の制度には、支援するための目的があります。
補助金・助成金の採択を目指し、受給をするには、
「国や自治体がなぜこのような制度を設け、支給するのか」という点を理解することが基本です。
「資金繰りが厳しいから」はたまた、「貰えるものは貰いたい」といった理由でやみくもに申請しても、
補助金・助成金を受給するための対象要件を満たしていなければ採択されないのです。
申請に際して準備をするにあたり、中小企業診断士といった経営の専門家に頼ることも選択肢のひとつです。
専門家のアドバイスを受けて、対象となる補助金・助成金の目的を理解し、入念な準備をする必要があります。
まとめ
少子高齢化の問題は、今後、日本企業の人手不足にますます大きな影響を与えていくと考えられます。
国や自治体が、「人材問題」を解消するための補助金・助成金の制度を設けているのは、そういった背景もあります。
このような制度を利用して、雇用促進、人材育成、労働環境の整備を進めることで、
企業の未来はまったく変わってきます。
ぜひ有効活用して、加速するグローバル化や事業の多様化に対応できる人材を育成し、企業を発展させていきましょう。